魅惑のインドネシア①

2017年5月4日14:38

 平成29年3月28日から同年4月2日にかけて,インドネシア共和国の視察を行いました。そこで見聞きして感じたことを全4回に渡ってブログに残したいと思います。

 

 何故,インドネシアを視察したのか。それは,近年,インドネシアが日本と密接な関係を持つ重要な国(例えば,インドネシアの貿易輸出先で日本は最大の輸出相手国)であるとともに人口約2億5千万人の約87%がイスラム教徒という世界最大のイスラム教国であるということに注目してのことでした。

すなわち,アジアでは珍しい普通裁判所の他,宗教裁判所が併存している国であり,宗教と法律がどのように併存しているのか,宗教裁判所の裁判とはどのようなものなのか,とても興味深かったからです。しかし,訪問すると,単に宗教のみならず,インドネシア特有の法文化や制度を感じることができたので,その点も含めて報告します。

 

 インドネシアでは,2つの弁護士会,PERADIPerhimpunan Advokat Indnesia)とKAIKongres Adovokat Indonesia)に訪問して話を聞きました。

 「え?弁護士会が2つ?」と頭から話が混乱しますが,インドネシアでは現在,弁護士会が複数存在し,そのうち2つの大きな組織が上記2つの弁護士会となっています。

 もうちょっと前のことから説明すれば,もともとインドネシアでは弁護士会が複数存在したところ,2004年に法律によって統一の弁護士会が設立され一つに集約した(今のPERADI)のですが,その後2008年に再度分裂,大きな組織としては上記2つの弁護士会となったようです。分裂の経緯は様々な理由の説明を受けましたが,権力争いという見方がもっとも一般的なのでしょうか。

しかし,いずれにせよこの“弁護士会の分裂状況”がインドネシア弁護士業界の最大の関心事であり,解決すべき問題となっているようです。

 

 何故,弁護士会の分裂が大きな問題となるのでしょうか?その一つは,インドネシアにおける弁護士の登録制度,養成制度にあります。

 すなわち,インドネシアでは弁護士会が独自に試験を課し,養成し,弁護士として登録させることができるのです(ご存知の通り,日本では裁判官,検察官,弁護士は共通の試験を受けて,共通の研修を受けている)。

したがって,PERADIKAIもそれぞれが弁護士を登録・養成しています。

そしてそれぞれの団体は他方の団体に登録している弁護士を把握していないため,インドネシアでは弁護士の総数が“よくわからない”というのが現状のようです。PERADIに登録しているのが約4万人,KAIに登録しているのが,約5万人以上と訪問の際お聞きしました。

 それではインドネシアの弁護士の人口は合計の約9万人かと言われればそうではなく,2つの組織以外の小さい組織も存在すること,2つの組織に両方登録している弁護士もいるので,弁護士の総数が“よくわからない”ようです。ただ,いずれにせよ日本に比べて弁護士の数はかなり多いことには間違いないようです。

 

 どちらの弁護士会に登録している弁護士であっても訴訟代理人としての資格には問題がないようです。

 この弁護士会の分裂状況についての判例もあるようでしたが,いずれの弁護士会でも裁判所の判断は“当方が唯一の正当性のある弁護士会という判断”という説明を受けました。実際は,複数の判例があり,解釈も分かれるようでしたが,いずれにせよこの分裂状況はすぐには解消する問題ではなさそうでした。

 

 日本では,日本弁護士連合会が唯一の弁護士会であり,裁判官・検察官・弁護士いずれになるにも司法試験を受け,司法修習を受けなければなりませんが,世界的にみればそれは当然のことではないということを感じることができます。

  インドネシアの状況は,ある意味では弁護士自治の究極の状況なのでしょうか。どうでしょうか。

  

  私たちは,それぞれの団体でそれぞれの盾をいただきましたので,弁護士会で双方2つを並べて置くことにしました。

 

  つづく

 

弁護士 金 井  健