行って感じた,カンボジア④

2015年6月19日00:50

 ところ変われば裁判変わる?

 

 裁判傍聴芸人である阿曽山大噴火さんという方の話は面白いですね。弁護士からみて当たり前になっているようなことでも,一般の人にとっては珍しいことが多いようで,視点が斬新です。でも,裁判って,日本の裁判を当たり前に考えていると,また外国で傍聴すると全然違って驚きます。

 

 まず,法廷の構造が違います。下の写真は,許可をもらって撮影したカンボジア初級審内の様子です。まあ,どちらかといえば日本に似ている方でしょうか。しかし,証言台の柵がやや高く感じます。また,写真では写っていませんが,裁判官の頭の上のところに国王の写真が掛かっています。さらに,写真には出入口も写っていますが,傍聴席には出入り口はありませんでした。裁判中に法廷内を傍聴人が出たり入ったりするのは違和感が…裁判に集中できないし。

 

 裁判の手続きについては,当然クメール語だったのでよく分かりませんでした。刑事裁判で黙秘権の告知はあったかな?民事訴訟法は日本ととてもよく似ていますから,民事事件の手続は似ているはず?まあ,ここら辺は少し傍聴しただけでは分かりません。

 

 判決文はどうでしょうか。神木先生によれば,カンボジアの判決には理由がほとんどなく,日本のそれと比べると論理に欠けているとか。法律があっても,裁判官がそれをきちんと適用できていない可能性があります。しかし,法の適用には明らかな過ちを指摘できることはあったとしても,これが正解というのはないでしょう。これは,法整備支援活動の難しさなのでしょうね。

 

 そして,これは信じがたいことではありますが,随所で聞かれる話では,裁判を受けるにあたって,裁判官にお金を渡すことがよく行われているというのです。これでは公正な裁判が行われようはずがありません。これが本当かどうかは分かりませんでしたか,しかし,そういうことがまことしやかに言われていること自体が,この国の司法権に対する信頼の低さを物語っているように感じました。

 

 裁判官の金銭の授受は賄賂に他なりませんが,こういうことが行われる背景には,法曹資格になるために多額のお金がかかるため,かかった費用を取り返すために行うという話も聞きました。試験に合格するために試験管にお金を払っているとも…負の連鎖ですね。ちなみに,カンボジア弁護士会でこのような事実があるか聞いたところ,きっぱり否定されました。

 

 最近、ヒューマンライツナウという団体が,ユニクロやジーユーと取引のあるカンボジアの工場で重要な人権侵害が行われているという疑いがあることを発表しています。カンボジアの司法権がしっかり機能していないことが,このような人権侵害の温床になっていると思われるところでもあります。

 

つづく

 

弁護士 金 井   健