伝統とグローバルの間で(ロンドン視察記①) 

2014年7月30日9:14

 弁護士の金井健です。

 私は,群馬弁護士会の労働社会保障委員会の一員として,平成26年7月2日~10日までイギリス(ロンドン)に視察に行きました。視察内容はイギリス国内の労働法制の現状や課題を学ぶことにありましたが,かかる調査報告は各委員がそれぞれ適切な場で詳細な発表をすると思いますので,この場では私の視点で感じたこと,考えたことを書き連ねたいと思います。

 

 私がこの短いロンドン視察の中で感じたことは“伝統とグローバリゼーションの交錯”でした。イギリスには歴史ある建物,文化,法制度がありますが,現在は多くの移民がいて多様な文化的影響を受けています。また,EU(ヨーロッパ連合)の影響も見過ごせません。このような“伝統とグローバリゼーションの交錯”を視察の様々な場面で感じました。そして,イギリスの司法制度も伝統とグローバルの間で揺れ動いているように見えます。

 

 今回の視察は,バリスター(barrister)のHelenTungさんに大変お世話になりました。彼女のおかげで,ロンドンで活躍する弁護士の事務所に訪問させていただいたり,英日法曹協会主催のレセプションパーティに参加させていただくことができました。

ところで,そもそも,バリスター(barrister)って何?と思われるかもしれません。実は,日本でいうところの弁護士は,イギリスでは,法廷弁護士であるバリスター(barrister)と事務弁護士であるソリシター(solicitorに分かれます。そして,バリスターは依頼者から直接事件の依頼を受けるのではなく,ソリシターから依頼を受けて法廷での活動を行うのが伝統なのです。

我々日本の弁護士の感覚では,「法廷での活動ができずにどうやって法律事項をアドバイスするの???」とか,疑問ばかりを感じてしまうのですが,伝統的にこの2者はまったく別の仕事として捉えられていたのです。そして,“法廷で振る舞う”というのはイギリスでは伝統的に威厳のあることであり,特別な仕事だったのだと思われます。

 下の写真は,ロンドン市内にある王立裁判所(王立裁判所というのは建物の名称で,内部に高等法院など組織が設置されています)です。なんと,美しく威厳の感じる裁判所でしょうか!日本ではこのような裁判所はお目にかかれません。もちろん,現在も使われていて,法廷内部もとても美しいです。こんな威厳のある法廷で,裁判官や前述バリスターは“かつら”を被って活動をしているのです。イギリスの司法制度の歴史の深さを感じずにはいられませんでした。

 

 そんなイギリスの由緒ある法廷やバリスターの活動も,グローバル化あるいは自由競争の波にさらされています。普通に考えて,法廷弁護士と事務弁護士が分かれていては,依頼者からすれば二重に人件費がかかってしまうのです。

そして,ソリシターは,一部法廷活動が許されるようになりました(しかし,ソリシターは法廷で“かつら”を被ることは許されておりません)。バリスターも直接依頼者から事件を受任できるようになりました。これにより,依頼者にとっては選択の幅が広がったといえるでしょう。しかし,他方で,由緒あるイギリスの司法制度は大きく変わることになるのです。このように,伝統あるイギリスの司法制度も揺れ動いているように見えました。

王立裁判所の裁判官やバリスターがかつらを脱ぐ日は来るのでしょうか?それでもこの美しい裁判所は残っていて欲しいですね。

 

続く

 

弁護士 金 井   健

 

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