「遺言」を書く前に知って欲しいこと(3) 遺留分

金井健 2011年6月16日 11:32

 遺言を執行するためには,公正証書遺言を除き,家庭裁判所で検認という手続を経る必要があります。相続人の多くは,この検認という手続で初めて被相続人の遺言書を確認することになります。

 

 私が,修習生のとき,家庭裁判所での研修で,この検認手続を傍聴する機会がありました。そこでは,とても印象的な出来事がありました。

 仲良く,歓談しながら,法廷に入って来た相続人らが,「Aさんに相続財産の全てを相続させる」旨の遺言書の内容を確認し,そのとたんに何とも言えない空気がその場を包み,それから相続人間の会話はとてもたどたどしくなったのです。

 まさに,争族のはじまりです。

 

 このように,特定の相続人に生前からの思い入れが強いからか,あるいは逆に特定の相続人に強い恨みがあるからか,特定の相続人に全財産を相続させる,あるいは特定の相続人を相続から外す遺言書が見つかりトラブルになることが多くあります。

 

 これは,遺留分という相続人固有の権利があるためで,遺言によっても遺留分を侵すことができないからです。仮に,遺留分を侵害するような遺言書が見つかった場合,遺留分権利者は遺留分を他の相続人から取り戻すことができます(ただし,遺贈があったことを知ったときから1年以内に請求しなければならない)。

 

 遺留分の割合については,直系尊属のみが相続人となるときは被相続人の財産の3分の1,その他の場合は被相続人の財産の2分の1と民法で規定されています。兄弟姉妹の相続人には遺留分がないことも注意して下さい。

 

 どうしても遺留分を持つ相続人に相続させたくない場合,相続廃除という制度もあります。しかし,相続廃除が認められるためには,被相続人に対して虐待をするなど著しい非行を行うことが要件となっており,なおかつ,被相続人が生前に家庭裁判所の審判又は調停を求める必要もあり,決して容易ではありません。

 

 したがって,遺言を作成する場合には,遺留分に配慮して作成するのがよいといえるでしょう。