行って感じた,カンボジア①

2015年6月15日 12:51

法律が一緒だと結論も一緒?法はどのように生まれ,実現するのか。

 

 カンボジアといえば何を思い浮かべるでしょうか?あまり思いつくところがない人でも,「アンコールワットがあるところ」と言えば多くの人が想像できるかもしれません。

 実際,アンコールワットはカンボジアの象徴になっています。国旗にも描かれていますし,アンコールビール,アンコール航空など重要な企業名にもその名前が入っています。

 

 日本とカンボジアとの繋がりといえば何を思い浮かべるでしょうか?猫ひろし?ちょっと前に,『地雷を踏んだらサヨウナラ』という,カンボジア内戦で亡くなったカメラマン・一ノ瀬泰造の生き様を描いた映画がありましたね。

 今は日本企業も多く進出しています。プノンペンにはイオンモールがあり,東横インもあります(行ったときは建設中でした)。

 

 それでは,カンボジアと日本の司法の繋がりをご存じでしょうか。かつて1970年代~80年代ころにかけて,カンボジアでは,激しい内戦がありました。そこでは,多くの知識人が殺され,国家の制度も滅茶苦茶になりました。そして,一から社会制度を作り直さなければならなかった新政府が,民法及び民事訴訟法の起草の援助を求めたのが日本なのです。そして,日本の専門家が中心になってカンボジアの民事訴訟法(2006年公布)・民法(2007年公布)が起草されました。結果として,カンボジア民法や民事訴訟法は日本のそれによく似ています。

日本は,現在も法整備支援として,民事関連法の制定や裁判官や検察官・弁護士といった法曹の養成を援助しています。法整備支援について詳しくは,法務省のHPをご覧になって下さい。

http://www.moj.go.jp/housouken/houso_houkoku_cambo.html

 

 さてさて,私たちは,このような両国の繋がりから,今回カンボジアの司法機関に訪問する機会に恵まれました。日本の支援によって法制度が整備された(されている)国の現状を見るのはとっても楽しみで,実際多くのことを感じたので,ブログではとっても簡潔にそれを書ければと思っています。

 

 少し話を戻しますが,法整備支援の成果によってカンボジアの民法・民事訴訟法は日本にそっくりです。でも普通の人が考えたら,突然、他の国の法律を持ってきて上手くいくの?その国の人は受け入れられるの?と思いませんか?

 実際,「ただ法律がある」というだけでは世の中はあまり変わらないのです。法律があって,法律文言を解釈する人たちがいて(主に学者など),それを適用する人たちがいて(主に行政・司法機関)初めて法が実現するのだと思います。したがって,法律が同じということが=同じ帰結になるという訳にはならないわけです。結果として,広い意味で日本の民事のルールとカンボジアの民事のルールはほど遠いと思います。

 また,考えてみれば,日本の民法も元はフランス民法とドイツ民法のハイブリット(1898年施行)でした。その後,我妻栄という日本社会の実態に合わせながらドイツ法由来の統一的解釈を行った優秀な学者が現れて,解釈学が大幅に進歩しました。そして,その後も,数々の議論や実務での運用に揉まれ,民法施行後110年以上経って,近々債権法が改正されようとしているというのが日本民法の現状です。

 このように,法律は,ただその法律(成文)があって実現する,「生まれる」ということはないのだと思いました。同時に,それが,法整備支援の難しさにもなっているようです。その点は次回以降。

 

 つづく。


 弁護士 金井 健

 

写真は,プノンペン市内リバーサイドのレストランより。川の向こうでは開発中のビルが建っているが,レストラン側は植民地時代の影響を残すフランス調の建物が並んでいた。法律についても,カンボジア労働法などはフランス法の影響を強く受けている。