成年後見は,なぜうまく機能しないのか ~市民後見~
小此木清弁護士 2011年10月 8日 14:31
1,成年後見が機能していない原因
介護保険と車の両輪と言われている成年後見は,なぜうまく機能しないのか。結論から言えば,縦割り行政と司法だからである。成年後見は,司法である家庭裁判所が後見人の選任権・監督権・後見報酬決定権などを担当し,その法整備は法務省の担当であり,後見人を必要とする高齢者の生活は,厚労省の担当となっている。
2,市民後見
厚労省は,平成23年度において市民後見養成・支援のモデル事業を全国37市町村においておこなっている。平成24年度からは,全国市区町村において施行し,平成26年度末には,全市区町村で完全実施とする計画である。 これに対し,全国の大多数の家庭裁判所は,市民後見人を選任していない。
3,後見報酬
例えば,後見人を必要とする年金のみの生活者には,確かに身上監護のために,補助あるいは,保佐人を必要とするが,家庭裁判所は,被補助者・被保佐人の資力が乏しい場合であるから補助・保佐報酬を認めない。これに対し,厚労省(市町村)は,成年後見制度利用支援事業の活用によって,報酬助成決定をしても,支払うことはできない。この場面では,家庭裁判所と市町村の両すくみとなってしまう。 さらに言えば,後見報酬算定は,裁判官(審判官)ごとと言っても過言ではない。今後,成年後見利用制度事業を活用し,安定的に報酬助成を行うには,家庭裁判所による報酬算定基準の情報開示とあわせて,全国レベルでの後見報酬算定基準の統一が必要となる。
4,市民後見を推進するために
以上から,激増する高齢者問題を解決するためには,厚労省の市民後見推進事業を現実化すべきことが求められる。ただ,裁判所は,行政が扱う一括りの高齢者という枠組みから,その救済を得られなかった1人1人の生活を判断し,救済しなければならない人権保障の最後の砦である。 「後見を必要とする人に後見を!」を標榜しながらも,高齢者問題の最後の解決場所として,裁判所に委ねられなければならない人権問題として,高齢者問題もまた位置づけられるのである。したがって,市民後見に関する問題解決のためには,今,行政と司法が十分協議し,縦割りでない現実に即した予算と手続を構築すべき時である。